
アクチュエータの基本と設計における考慮点~減速機とモータの組み立ての効率化~(後編)

アクチュエータとは、電気、空気圧、油圧などのエネルギーを物理的な運動に変換する装置です。自動ドアの開閉部やロボットの腕の動作部分など、私たちの生活に身近な機器から産業機械まで、幅広い分野で活躍しています。アクチュエータという用語は、アクチュエータシステムと混同されることがありますが、「アクチュエータ」は駆動部だけを指します。具体的にはモータや減速機などの個別の部品を含みます。一方、アクチュエータシステムは、これらの駆動部に加えて、制御システムやセンサーなども含む、システム全体を指します。
実際にアクチュエータを選定する際、既存のアクチュエータ製品ではシステムの要件を満たさないことも多いのではないでしょうか?さまざまな製品を調査しても、「これだ!」と思うものが見つからず、自分で減速機とモータを組み合わせるなどのカスタム設計が必要な場面も時にはあると思います。
今回のコラムは前編と後編に分かれており、前編では、アクチュエータの基本的な概要とその種類について解説しました。アクチュエータは機械の動きを制御するための重要なコンポーネントであり、その選定はプロジェクトの成功に直結します。今回は、その続編として、アクチュエータの設計における重要な考慮点と、導入による作業の簡易化について詳しく解説していきます。
アクチュエータの設計における考慮点
一般的なアクチュエータの動作プロセスは、以下のステップで構成されています。
まず、コントローラからの指令がアクチュエータに送られる「制御信号の入力」が行われます。次に、モータが電気エネルギー、空気圧、油圧などを機械的エネルギーに変換する「エネルギー変換」が起こります。その後、減速機が回転速度を調整し、トルクを増加させる「速度とトルクの調整」が行われます。次に、出力シャフトが動作を伝達し、実際の機械的な動きを実行する「機械的動作の実行」が続きます。センサーが位置、速度、トルクなどのデータを取得し、コントローラにフィードバックする「フィードバック」が行われ、そのデータに基づいてコントローラが制御信号を調整し、正確な動作を維持する「制御の調整」が行われます。
このように、アクチュエータは複数のコンポーネントが協働して機械的な動作を実現する重要なデバイスです。アクチュエータが本来の性能を発揮し、システム全体が効率的に動作するためには、各段階での詳細な設計と検討が必要です。特に、モータと減速機からなる駆動部の設計には多くの手間と時間がかかり、導入を難しくする要因の一つです。本章では、アクチュエータの駆動部である減速機とモータに焦点を当て、その駆動装置を構築するための各段階について具体的な考慮点と課題を見ていきます。
設計段階
まず、設計段階では、システムの要件を満たすための基本的な仕様決定と構造設計が行われます。特に、減速機とモータの特性を正確に把握し、最適な組み合わせを決定することが重要です。トルクや回転速度の要件を満たすためのシミュレーションや設計は、非常に詳細で時間がかかるプロセスです。さらに、製品に関する知識が不足していると、選定のプロセスは困難になります。選定には高度なスキルが必要で、習得は容易ではありません。カタログを見る際にも、モータの専門用語、その特性、負荷の理解など、多岐にわたる知識が必要です。特に、初めてプロジェクトを任された方は、「何から調べたらいいのかわからない」「カタログを見ても意味がわからない」「計算してみたけど、合っているかわからない」といった悩みを持つことが多いでしょう。また、間違った選択をしてしまうと、再設計時間や納入時間のロス、コストの増加を招くだけでなく、重大なトラブル発生や現場からのクレームにつながる可能性があります。
減速機はトルクを増幅し、モータの回転速度を適切に調整する役割を担います。一方で、モータは効率的に動力を供給し、システム全体の動作を制御します。これらの特性を正確に把握し、システムの要求に合った最適な組み合わせを見つけるためには、以下のような点に注意を払う必要があります。
- モータの専門用語理解:出力、電圧、周波数、定格電流など、カタログ値を読み取る能力
- モータの特性理解:定格回転速度、定格トルク、最大トルクなど、それぞれのモータの特性についての理解
- 負荷や慣性の理解:起動(始動トルクと呼ばれることもあります)トルク、プルアウトトルク、許容慣性モーメント、イナーシャ比など、負荷や慣性に関する知識
使用する機器のメーカー・仕様選定の段階
次に、使用する機器のメーカーや仕様を選定する段階では、信頼性、コストパフォーマンス、そして供給元のサポート体制などを考慮した選択が求められます。減速機とモータの選定には、多くの選択肢の中から最適なものを選ぶための詳細な調査と比較が必要であり、この段階でも多くの時間と労力がかかります。そのため、アクチュエータに関して深い知見のある専門メーカーへの相談をおすすめします。
またその際は、品質・納期・コストを満足させるメーカーであり、製品の調整や納品後の確認、管理についても安心できることが重要です。
こういった点から、相談するメーカーの選び方として以下のようなポイントが挙げられます。
- 長年製品提供をしてきた実績がある
- 多くの分野で製品実用実績がある
- 精度・品質面で安定した製品提供をしている
組み立て段階
組み立て段階では、減速機とモータの正確な取り付けと組み合わせの精度が求められます。取り付けミスや不適切な組み合わせは、システム全体の性能に大きな影響を与えるため、細心の注意が必要です。また、この段階では、精密な作業と適切な工具の使用が必要とされるため、作業者のスキルと経験が大きく影響します。組み立て作業では、機器が持つ精度と合わせて、組み立て精度が製品の性能に直接影響するため、精密な組み立て作業と調整作業が不可欠です。組み立てプロセスが効率化できれば、コスト削減と納期短縮にもつながります。
テストおよび調整段階
最後に、テストおよび調整段階では、減速機とモータが設計通りに動作することを確認し、必要な調整を行います。この段階では、動作確認と微調整に多くの時間がかかり、特に精密な動作が求められる場合には、繰り返しの調整が必要です。
製品が設計仕様を満たしているかを確認し、必要に応じて調整を実施します。
問題が発見された場合は、原因を特定し対策を講じる必要があります。これは、動作確認、性能試験、耐久試験などを通じて、製品の信頼性と性能を保証する意味も持ちます。
アクチュエータの一体化によって設計・調達などの工数を削減
こういった課題に対し、減速機とモータが一体となった製品を選ぶことが解決手段のひとつとなります。アクチュエータは、モータ、減速機、フランジなどの必要な部品をあらかじめ組み立て、ひとつのユニットに統合した製品です。これにより、製品選定の工数を削減するとともに、組み立ての工数やプロセスの難しさを大幅に軽減し、お客様での導入を簡易化・短期間化することが可能となります。
設計プロセスの簡略化
モータや減速機、フランジなどの部品があらかじめ適切に組み合わせられている一体型の駆動部は、設計者がそれらを別々に選定して組み立てる手間が省けます。これにより、システム設計の一貫性が高まり、異なる部品同士の互換性や適合性の問題が軽減され、設計工数の削減が期待できます。
部品調達の効率化
一体型駆動部の採用により、部品調達プロセスも効率化されます。個別に部品を調達する必要がなくなるため、部品ごとに複数のサプライヤーと行っていた交渉も不要となります。部品ごとの調達プロセスがひとつの製品に集約されるため、調達工数の削減が可能です。
組み立て工程の省略と品質の安定化
一体型駆動部を使用することで、モータ、減速機、フランジなどを組み立てる工程が不要となります。これにより、導入までの時間を大幅に短縮することができます。また、組み立て工程が省略されるため、その工程における作業ミスも起こり得ません。歯車同士を干渉させ傷を付ける、オイルシールを傷付けるといった、組み立て時に起こる不具合の心配をしないですむようになります。
テストおよび調整の手間の削減
一体型の駆動部は、製造段階でのテストおよび調整が行われているため、ユーザーはそのまま利用することができます。
これにより、組み立て後のテストや調整の手間が省け、確実な性能を発揮することが可能になります。
アクチュエータ選定における設計と組み立ての効率化を
アクチュエータは、現代技術のさまざまな装置において、制御を基本とした中心的な役割を果たしています。しかし、その選定から組み立て、導入に至るまでのプロセスは複雑であり、専門的な知識と技術が必要です。そこで、ナブテスコは精密減速機RV™とサーボモータを一体とした、コンパクトアクチュエータAFシリーズ、および重量物開閉用アクチュエータRTシリーズをご用意しております。
精密減速機RV™の持つ高精度と高耐久性をそのままに、減速機とモータの一体型設計により、さまざまな産業分野での効率的な導入と生産性の向上に貢献しています。
従来の電動アクチュエータでは難しかった5,000以上の超高減速比に対応しています。ダブルブレーキ仕様で二重の安全機構を提供します。一つのブレーキが故障した場合でも、もう一つのブレーキが作動するため、重量物が突然落下するリスクを減少させます。
これらのアクチュエータの導入により、設計プロセスの簡素化、組み立て工程の省力化、さらにテストおよび調整の迅速化などをサポートいたします。これにより、製品開発のスピードアップやコスト削減にも貢献できると考えています。
アクチュエータの選定や導入の効率化をお考えの方は、ぜひナブテスコにご相談ください。私たちの専門知識と豊富な経験を活かし、貴社のニーズに最適なソリューションをご提供いたします。