夢をかなえる本気のエンターテインメント
搭乗型ロボット「アーカックス」開発の軌跡
ツバメインダストリ株式会社(以下、ツバメインダストリ)が開発した「アーカックス」は、人が乗り込み操縦できる搭乗型ロボットです。全長4.5メートル、重量3.5トンという機体は、まさに誰もが一度は夢見た“ロボットを自ら動かす”世界を現実にしました。この開発を牽引したのは、ツバメインダストリCTOの石井啓範氏。大型ロボット開発のエキスパートとして、「動くガンダム」などエンターテインメント性の高いプロジェクトにも参画してきた経験を持ちます。搭乗型ロボット開発を通じて培った技術を、将来的には社会課題の解決に活かしたい――その思いを胸に、アーカックスの挑戦を続けています。
そして、この壮大な挑戦を精密減速機で協力しているのがナブテスコです。機体の関節部には、滑らかで力強い動きを支えるナブテスコの精密減速機RV™が採用されています。なぜナブテスコが選ばれたのか、その理由を石井氏に伺いました。
子どもの頃の夢が現実に。プロジェクト参加の背景
「課題解決」よりも「夢からの発信」
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アーカックスの開発コンセプトは、ロボット操縦という新しい価値を提供することです。「ちゃんと動いて、格好良い」を前提に、人が搭乗して操作することを重要視して開発を進めました。 もともとこのプロジェクトは、弊社の代表である吉田が始めたものです。2021年の年明けごろ、吉田がTwitter(現・X)で「搭乗型ロボットの開発に興味ある人はいませんか?」と発信。たまたまその投稿を目にしたことがきっかけで、私もプロジェクトに参加することになりました。 子どもの頃に見たガンダムへの憧れがエンジニアを志す原点であった私にとって、このプロジェクトは、純粋に「夢を現実にする」挑戦でした。社会課題解決に主眼を置くことも重要だと思いますが、それだけがモノづくりの全てではないと考えています。
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アーカックスの主なターゲットはエンターテインメント市場や国内外の富裕層の方々です。スーパーカーのように“所有することそのものに価値を感じてもらえるロボット”を目指しています。単なる産業用・家庭用という枠を超え、「人が憧れるロボットの在り方」を社会に提案したいと考えています。 もちろん、その先の未来も見据えています。アーカックスの開発で培った様々な技術を、他の産業分野に応用することを目指しています。特にインターフェースではパイロットの動きとロボットの動きが完全に連動し、自分の体がそのまま巨大ロボットになったように感じられる世界をいつか実現したいですね。
前例なきロボット開発。技術パートナーとの挑戦
精密減速機RV™の一択だった
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部品を選ぶうえで、最も重視したのは「信頼性」でした。人が乗り込む以上、これは絶対条件です。そのためにも、壊れない構造と耐久性が欠かせません。
一方で、アーカックスは、私が以前携わっていた建設機械とは求められる条件が異なります。建機は作業に必要なパワーや耐久性が優先され、ときには機体を重くすることで力を引き出すこともあります。しかしアーカックスは作業力だけでなく「正確で滑らかに動くこと」、そして「デザインと動きを両立させること」が重要でした。この考え方は、“大型の人型ロボットをどう成立させるか”という観点で得た経験、特に「動くガンダム」プロジェクトの知見が活きています。
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アーカックスに搭載する減速機には、3.5トンの機体を動かすトルク、精密な動作、そして高い信頼性が必要でした。この3つの条件をすべて満たせる減速機として、迷わず精密減速機RV™を選びました。「動くガンダム」の開発でもご一緒していたため、エンジニアの方々との信頼関係もすでに構築できており、技術力も対応力も十分に理解していたからこそ、「ナブテスコさんしかない」と思えたんです。
アーカックスには26の関節があり、そのうち腰の旋回、肩、肘、前輪ステアリング、後輪駆動の9カ所に精密減速機RV™を採用しています。精密減速機RV™はガタがほとんどなく、腕の動きが非常に滑らかです。走行面でも高い安定性を発揮し、“人を乗せて動かす”ロボットとして信頼性を備えていました。
既存技術を生かし、理想のデザインを実現
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開発で特に苦労したのは、デザイナーが描いた理想のフォルムを、実際の構造として成立させることでした。当初、肩や肘の関節部に採用予定だった駆動部(モータ+減速機)では、機体のシルエット内に収まらないという課題がありました。
そこでナブテスコさんに「トルクはそのままに、駆動部をコンパクトにできませんか?」と、かなり無茶な相談をしたんです。本来なら、これだけ小ロットの注文に対してできる対応ではありません。それでもナブテスコさんは、私たちの「搭乗型ロボット」という新しいプロジェクトの未来性やロボティクス技術の挑戦を真摯に受け入れて、モータ締結部品の改良を検討してくれました。過去に「既存サイズのまま高トルク出力を実現した減速機」を開発された実績をお持ちだったので、その知見をベースに締結部品を専用設計してくださったことにより、トルクと小型化が両立でき、デザインを損なうことなく駆動部を収めることができました。
実際に組み込んで動かしたときの感触は、「さすが」のひと言。減速機に起因するトラブルは一切なく、ガタの少なさと滑らかさにチーム全員が驚きました。アーカックスが「格好良くてちゃんと動く」機体として完成できたのは、ナブテスコさんの確かな技術力があってこそだと感じています。
共に夢を追うパートナーとして
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ナブテスコさんにとって、“搭乗型ロボット”分野への製品提供は前例が少なく、万が一のリスクについて社内で慎重な検討が行われたと聞いています。
それでも、担当者の方々が「この挑戦を応援したい」と後押ししてくださり、採用が実現しました。単に製品を納める関係ではなく、“搭乗型ロボットを成立させたい”という夢を共有しながら前向きに取り組んでいただけたことに、とても感謝しています。
アーカックスが拓く、人とロボットの新しい未来
アーカックスは完成しましたが、これはまだ出発点です。今後は得た技術を応用し、産業分野や家庭内で活躍するロボット等の新しい開発にも挑戦していきます。 エンターテインメントの分野では、2028年に羽田空港近くで搭乗体験施設をオープンする予定です。これまでは「乗ってただ動かす」体験でしたが、次は「動かして何かの作業を行う」新しい体験の実現を目指しています。 その次のステップとして、アーカックスの次世代機開発を計画しており、足回りは全方位移動を実現すべくナブテスコさんのメカナム駆動ユニットRVWを採用予定です。より複雑な動きを実現することで、“人とロボットが一体となる操縦体験”をさらに進化させたいと考えています。 この開発にもナブテスコさんの協力は欠かせません。次世代では関節の数を増やす予定ですし、よりアーカックスに適したギア比を持つ減速機の開発も相談させていただいています。搭乗型ロボットという挑戦を一過性の話題で終わらせず、次の産業へと発展させること――それが私の夢です。 主要な部品を支えるナブテスコさんのような信頼できる国内メーカーの力を得ながら、これからも共に、夢を現実に変える挑戦を続けていきたいです。

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ツバメインダストリ株式会社は、神奈川県横浜市を拠点に、搭乗型ロボットの開発・製造に挑む先進的なテック企業です。「サイエンスフィクションをサイエンスリアリティへ」というミッションを掲げ、人が実際に乗り込んで操縦できる大型ロボット「ARCHAX」を中心に開発を進めています。設計・制御・機構の高度な技術を統合しながら、外観デザインや操縦体験にもこだわり、”ロボットに乗る”という全く新しい体験価値を創出しています。現在は機体のリース事業、展示やコラボレーションによる体験提供などを通じて社会実装を推進。技術革新と効率的な開発体制を両立し、未来のモビリティの実現に向けた挑戦を続ける企業です。
用語集
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精密減速機 RV™とは
精密減速機 RV™とは
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ガタ(バックラッシ)とは
ガタ(バックラッシ)とは
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モータ締結部品(モータ結合部)とは
モータ締結部品(モータ結合部)とは